AIに任せる仕事、人に残る仕事

岩崎学園情報科学専門学校の武藤幸一先生

武藤幸一先生は、以前、年間5万~7万行ほどのプログラムを自分で書いていました。現在、その量は1万行未満になっています。

AIにコードを任せるようになったためです。しかし、仕事が減ったわけではありません。現場の話を聞き、業務を理解し、「何をつくるべきか」を考える時間は増えています。

この変化を自ら経験する一方で、武藤先生は、AI時代に何を学ぶ必要があるのかを教える教育者でもあります。

今回は、AIによって変わる仕事と人の役割、操作方法だけで終わらない企業研修について、武藤先生に伺いました。

「どうつくるか」から「何をつくるか」へ

先生自身の仕事は、AIによってどのように変わりましたか。

武藤先生:

以前は、年間で5万行、多いときには7万行ほどのプログラムを自分で書いていました。現在はAIにコードをつくってもらう場面が増え、自分で書く量は1万行にも満たないと思います。

以前は、AIがつくったコードにかなり手を入れる必要がありましたが、最近は精度も上がっています。もちろん、要望どおりのものになっているか、注意すべき点が守られているかは自分で確認します。

コードを書く量は減りましたが、仕事がなくなったわけではありません。学内には、改善したい業務や、新しくつくりたい仕組みがいくらでもあります。

大きく変わったのは、時間の使い方です。コードを書く時間が減った分、現場の話を聞き、業務を理解し、本当に必要なものを考える時間が増えました。

「どうつくるか」に使っていた時間が、「何をつくるべきか」を考える時間へ移ってきています。

今の作業を速くするだけではない

AIは、現在の業務を効率化するために使うものなのでしょうか。

武藤先生:

今行っている業務を、そのままシステムへ置き換えるだけではないと思います。

例えば、入力画面を使いやすくすることは、これまでのシステムでも行われてきました。現在は、音声や手書きの情報を取り込んだり、AIに内容を整理させたりすることもできます。

今までの作業をそのまま速くするのではなく、仕事の流れ自体を変えることも考えられるようになっています。

例えば就職支援では、過去の卒業生がどの企業に内定したのかという情報や、企業が公開している情報などを活用できます。それらをAIで整理し、その学生にはどのような企業が合うのか、企業はどのような人材を求めているのかを考えるための仕組みをつくることができます。

これまで担当者が経験やノウハウによって行っていた仕事を、蓄積された情報とAIで支援できれば、経験の浅い教員でも、一定の水準から就職指導を始められる可能性があります。

現場との話し合いで必要なものが決まれば、「まず来週までに動くものをつくります」という速度で進めることもできます。

AIは、今の作業を効率化するだけでなく、仕事の進め方そのものを見直すためにも使えると思います。

AIを使う力と、確かめる力

AIが高い品質の成果物をつくれるなら、人は内容を理解しなくてもよいのでしょうか。

武藤先生:

AIがつくったものをそのまま使い、「なぜこの内容になったのかはわかりません」という状態では、仕事として責任を持つことができません。

例えばプログラムであれば、「なぜこのコードを書いたのですか」と聞かれたときに、「AIが出したので、そのまま使いました」では困ります。

自分だけでしかつくれない人でも、AIでしかつくれない人でも足りません。自分でも内容を理解でき、そのうえでAIを使える人が必要です。

これからは、すべてをゼロから速くつくる力だけでなく、AIが出したものを読み、間違いに気づき、修正を指示できる力が重要になると思います。

翻訳を使って文章をつくる場合と同じです。文章をゼロから書かなくても、不自然な部分がないか、意図と合っているかは、人が読んで判断しなければなりません。

AIに作業を任せても、結果を確かめ、説明し、責任を持つ役割は人に残ります。

AIには指示できても、人とは合意をつくる必要がある

AIには代わりにくい、人の役割はどこにあると考えていますか。

武藤先生:

AIは、こちらが指示したことを素直に実行します。別の案を出せば、「おっしゃる通りです」と応じて、すぐにつくり直してくれます。

しかし、実際の仕事では、相手から言われたことをそのまま行えばよいわけではありません。

相手の話を聞き、本当は何に困っているのか、どのような方法が一番よいのかを考える必要があります。ときには、「最初は使いにくく感じるかもしれませんが、将来的にはこちらの方がよくなります」と、自分の考えを伝え、相手に納得してもらわなければならないこともあります。

また、多くの仕事は一人だけでは完結しません。自分にできることと、ほかの人にできることは違います。

異なる専門性や立場を持つ人同士が、お互いの知識を組み合わせ、折り合いをつけながら進めていく必要があります。そのためには、コミュニケーションだけでなく、プロジェクトマネジメントやチームマネジメントの力も必要です。

AIを使う力が高くなっても、人と話し、考えを伝え、協力して仕事を進める力は変わらず重要だと思います。

AIの方が上手い。それでも人が学ぶ意味

AIが自分より優れたものをつくる時代に、人が学ぶ意味はどこにあるのでしょうか。

武藤先生:

学生を見ていても、そうした難しさは感じています。

以前は、本を読んで勉強し、自分でプログラムをつくれるようになることが、わかりやすいスキルアップでした。しかし現在は、自分が時間をかけてつくったものより、AIに作らせたものの方が品質が高いこともあります。

そうなると、「自分が学ぶ意味はあるのだろうか」と感じてしまうことがあります。

だからこそ、自分がつくったものによって、誰かの仕事や世の中が変わる瞬間を経験することが大切だと思います。

実際に相手と話すこと、異なる知識を持つ人と交流すること、自分の取り組みを評価してもらうこと。そうした経験が、AI時代に学び続けるきっかけになるのではないでしょうか。

全員共通の基礎から、役割に合った研修へ

すべての人が、最新のAIを学び続ける必要があるのでしょうか。

武藤先生:

AIを専門的に活用するのであれば、新しいモデルや仕組みを継続して学ぶ必要があります。非常に変化が速い分野だからです。

ただし、すべての人が、あらゆるAIや最新技術を追い続けなければならないわけではありません。一方で、AIをまったく知らなくてもよいということでもありません。

現在はインターネットを使えることが仕事の前提になっています。AIもそれに近い存在になり、業種を問わず、使えることが基礎的なリテラシーになっていくと思います。

まずは、AIとはどのようなものなのか、何ができるのか、どのようなことに注意しなければならないのかを知る必要があります。専門家のようにすべてを理解するのではなく、自分の仕事の中で適切に使えることが大切です。

企業がAI研修を行う場合、どのように内容を考えるとよいでしょうか。

武藤先生:

最初の段階では、AIに何ができるのか、どのような危険や注意点があるのかという基礎を、全員が共通して学ぶ必要があります。

ただし、その先は年齢ではなく、立場や業務によって分けた方がよいと思います。

経営層、管理職、現場で業務を行う人では、必要になる研修内容も変わると思います。個人情報を扱う仕事と、そうでない仕事でも注意点は変わります。人命に関わる分野であれば、さらに慎重な使い方が必要です。

最初は全員が共通の基礎を学び、その後、それぞれの立場や業務、業種に合った使い方へ進む。この二つの段階で考える必要があります。

AIを使う会社から、AIと働ける会社へ

武藤先生のお話から見えてくるのは、AIの操作方法を覚えることは、仕事を変えるための出発点にすぎないということです。

企業のAI研修では、まず全員がAIの基礎と注意点を理解する。そのうえで、立場や業務に合った使い方を考え、現在の仕事の流れを見直していく必要があります。

AIに任せる仕事と、人が判断し責任を持つ仕事を整理する。AIによって生まれた時間を、現場の理解や判断、周囲との対話に使う。

そこまで考えることで、AIは作業を速くする道具から、会社の仕事を変える力になります。

インタビュー協力

岩崎学園情報科学専門学校
武藤 幸一 先生

岩崎教育サービスでは、生成AIの基本的な使い方や、利用時の注意点を学ぶ企業研修を行っています。全社員向けに基礎から学びたい、実際の業務でどのように活用すればよいか考えたいなど、企業の課題や受講者に合わせた研修内容についてもご相談いただけます。

コラム一覧へ